池田弥三郎・『ふるさと日本』 1972
残念なことに昨年いっぱいで銀座・奥村書店が無くなって、銀座の散策の大きな愉しみが忽然と消えてしまいました。私にとって銀座の聖域、いや、オアシスの方が相応しいスポットでありましたが、今その跡を見ると悲しい限りです。
昨年ぎりぎりに古書を求めに伺い、この池田弥三郎著『ふるさと日本』を買い求めました。
生粋の江戸っ子である池田さんの語るような流れで書かれた文体は、久しく書物から離れていた私にとって新鮮で豊かなひとときを愉しめる、絶好のエッセイばかりです。
「ふるさと日本」「ふるさと東京」「旅の文化史」「季節そのおりおり」と四編に分かれていますが、なかでも、この本を購入した奥村書店との因縁というか、「ふるさと東京」の内、(ふるさと銀座)が池田さんの祖父が営んでいた銀座『天金』というてんぷらやと、夫々の時代の推移とを掛け合わせた珠玉のエッセイばかりで秀逸です。幕末の彰義隊を匿う話から「東京」を昔の江戸っ子は「トウケイ」と読んでいたことなどまで、文章の詳細な部分に江戸の名残が散りばめられ、今日との比較も分かりやすく、嬉しい買物でありました。
1967年に鹿島研究所出版会から刊行されたこの本の内容は、江戸っ子らしく当時の高度成長を牽引した建設業界を皮肉っている文章も多く、発行者も辛い立場であったであろうことは想像がつきます。
尚、著者・池田弥三郎さんの甥子さんが池田雅彦さんで、学生時代は慶應大学ブルーグラスバンドの名バンジョー・プレィヤーとして活躍され、今はユニバーサルミュージックの音楽プロデューサーとして、あの『WaT』 http://www.youtube.com/watch?v=imeKI07eZCk をプロデュースされています。彼らの音楽に、何やら懐かしいフレーズを感じれば、それは間違いなく池田さんの感性が織りこめられているからです。
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