セザンヌの正統性
昭和30年代の前半、久我山の家の離れには武蔵野美術大学に通う従兄が下宿していて、学校から帰ると其処に遊びに行くのが楽しみでした。あるとき、六畳ほどの畳部屋には油絵の授業の課題からか、セザンヌの模写に励んでいましたが、茶室のような天井も低い仮設小屋もどきでしたから、採光も良くなく苦労していたことを思いだします。仮設小屋といいましたが、この小屋のような建物は1953年に父が改築に伴い、廃材で信州の大工さんたちの荷物置き場兼休憩所として作ったものでしたが、しっかり出来ていたので、その後も、40年以上、納戸として使っていました。
このセザンヌの絵そのものを、従兄が模写していたのですが、キャンバスに油絵具で描く前に、何枚ものデッサンを木炭で描いてはコッペパンで消したりと苦労していました。「自然を円筒、球、円錐に見立てる」抽象化への実験を繰り返し、この世の中に存在するものを単純化して構築的・造形的に捉える反印象派の旗手・キュビズムの創案者として知られるセザンヌですが、その考えをも模写しなければならなかったようで、従兄がデッサンしながらも、片手にセザンヌの画集を置き、苦しんでいた様子を思いだします。
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