ボナール・食堂
ボナールが住んでいたカンヌの住まいを描いた何点かのうち、可愛いけれども不気味な一枚です。ガラス戸の奥からこちらを見据えている人はまるで心霊写真のようでもありますが、画家が意図的に描いたからには、無意味という事はありえず・・・、きわめて不可解なのであります。ボナールの絵は観る者に豊かな感受性を奮い起こさせるほどの効果があって、今のような閉塞感全開の状況では、最も、生きる歓びを示唆してくれる画家ですから、この絵のもつ暗示的画風は、この画家らしからぬ表現なのです。
テーブル奥、鼻先がかすかに見える犬におやつでもあげている、長閑な午後のひとときは、輝く庭の光が室内まで射し込み、眩いばかりに露出オーバー気味です。美味しそうなお菓子はあるものの、飲物はこれから準備でもするのでしょう。朝から出しっぱなしのような水差しだけ片付けるのでしょうか。どんなティーセットが登場するか、愉しみですね・・・、たぶんこの設えからして、やや田園的装飾が描かれた陶器製のセットあたりが正解かもしれません。ボナールは大きなテーブルがよほど好きだったのか、数多くの大きなテーブルを描いていて、日常の豊かで平凡なシーンを象徴的に表そうとしていたかのようです。
ボナールの色彩構成は、カンヌに相応しい地中海の煌めきそのものです。その補色の取り合わせ、同系色の色相トーン展開など・・・、ボナールの色彩調合は純色同士の濁りない、彼の人生そのまんまでもあります。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
はじめまして。
土門拳を検索していたら、こちらにたどり着きました。以前にも何かを検索していたら、やはりこちらにお邪魔したことがあります。
さてボナールのこの絵ですが、ドアの向こうから覗き込んでいる人物は、テーブルで腕組みしている少年がガラスに映り混んでいるのではないでしょうか。
他のガラスには、左側の壁の輪郭が映っているように見えます。
投稿: やま | 2013年11月13日 (水) 午前 10時47分