桜田門から参謀本部を望む
井上安治
明治期の文明開化は、人々の生活のみならず、浮世絵版画の世界にも、新たな光をともしました。それまでとは違う、新しい空間表現、水や光の描写。何度も版を重ねて微妙な陰影がつけられた作品は、「光線画」と称して人気を呼びました。その第一人者であった小林清親に、明治11年(1878年)15歳の井上 安治は入門しました。清親は大判のサイズで「東京名所図」という揃い物の版画を発表しており、それを引き継ぐような形で、安治は、同様の作品をハガキ版という約4分の1の大きさで制作したのです。スナップ写真風に、名所やそこに集う人々、時間や季節の経過を切り取った図柄は、清親の作品をそのままなぞったものも多く見られますが、版が縮小されたためか、人物や描線がいくらか省略されより引きしまった作品となっています。隅田川、両国、浅草、上野などのんびりとした光景の間に登場する駅や鉄橋といった洋風の建築が、江戸ではなく東京という都市がもたらす新鮮な空気を感じさせます。(府中市立美術館)
知らない世界はまだあるものです。世田谷中央図書館の版画の棚にあった井上安治という版画家のことなど全く知りませんでしたが、彼の『明治東京名所絵』をめくっていると江戸の浮世絵を引継ぎながらも、新しい時代の空気を表した東京の光景が展開しています。後に多くの東京名所絵葉書に登場する観光スポットのアングルの典型を作り上げたようですが、その名前を知る人も殆どいないようであります。光があたって出来る人影を影法師といいますが、師匠の小林清親から習った影のあしらいがモダンな要因かも知れません。
夏の早朝、皇居桜田門から望む国会議事堂方面の光景はこの絵葉書と全く変らず、唯一、陸軍参謀本部の建物が1945年の空襲で消滅してしまったのは景観的に残念ですが、今も気持ちよい東京の定番アングルです。
さて、お知らせですが、このブログのディスク容量がオーバーとなる、本年12月12日をもって、alpshima は毎日連載の記事が完了いたします。現在、記事のストックがいっぱいとなり、 alpshima にタイムリーな記事を書き込みできなくなりましたので、今からでも新らしいアドレス http://alpensmile.cocolog-nifty.com/ のブログを、併読ください。
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