日本橋はこの川を右手に進んだ処ですが、井上安治は幕末から明治初期の目まぐるしい変遷を目の前にしながらも、懐旧の情景を留めようとしながら、記録的要素をも見逃していないのが、職人ばかりの版画界において貴重なのであります。
江戸橋の欄干から僅かに見える三角屋根は三菱倉庫群ですが、この景観に不釣合いな倉庫を皮肉っぽく描いているところなど、なかなかのやり手でもあります。正面の富士山は、実際、このスケールで観えていたのかも知れませんね。陽も富士山に沈み、一気に夕闇となり、ガス燈や料亭の明かりが灯された時間帯の表現が、堪りません。
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