2011年10月14日 (金)

明治後期 横浜グランドホテル

Photo 明治末期の横浜グランドホテル http://www.hotel-label.com/yokohama_grand_hotel.html の姿です。横浜港がパノラマ展開していて、その先には房総半島も広がり、居留外国人もその光景を楽しんでいます。馬車の行列は陸軍の軍人さんが乗っていることから、戦勝パレードの一環かも知れません。時代的には日露戦争に関係しているパレードというのが妥当なところでしょうか。

このホテルのことではありませんが、徳川瓦解による拙速な近代化・西欧化によって、良識ある改革派にさえ、笑いものになった井上馨の建築プロデュースのセンスの悪さは、関東大震災や東京大空襲によってその多くが消えましたが、明治末期の頃は全国にその影響が出ていて、いわゆる日本の俗悪折衷感覚の頂点として、記録資料に残されています。制度・思想的なことよりも、明治維新後の風俗としての変革はまさに、外人に媚を売る「イマイチ」そのものでありました。

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2011年8月13日 (土)

デュフィの風俗画

Dufy6 1920年頃のパリはベルエポック爛熟期で間もなくアールデコ全盛を迎えようとしていた時期でもあり、人間の欲望と贅沢三昧が一気に爆発した頃であります。その風俗や流行の情報の流れは案外と早く日本にも伝播して、銀座あたりにはパリ風の流行大好き人間たちが溢れ出していたようでありますが、残念ながら衣を中心にならざるを得ず、ご本家の様に食・エンターテイメント・アートなど総合的な広がりまでは至りませんでした。

デュフィは室内装飾家としての修業も経験してましたし、テキスタイル・デザインのセンスも卓越してましたから、このようなちょっとした風俗スケッチ的な描写にもなかなかの時代感性を読み取れる細部までもが、嬉しいほどリアリティーを以って表現されています。まるで芝居のコスチュームデザインのスケッチのような雰囲気があって、それが却って時代考証をも読み込んだ域にまで達しているようであります。

稀代の洒落者であったデュフィらしい、1920年当時の先端風俗の記録でもあります。

デュフィについて http://www.depo.jp/art/dufy_inv_001.html

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2011年7月14日 (木)

ボストン 1965年。

Boston_harvard_square_67 夜ともなればシャッターが下りて、各お店は真っ暗となれば、散歩の愉しみ・ウインドーショッピングも間々ならず、賑やかな人の出入りはコンビニばかり・・・、といった光景が目に入ってくる昨今の商店街ですが、それでも昭和40年代までは、全国、活気のあった商店街に溢れていたのです・・・。

昭和30年代中頃から、若い世代にとって欲しいものが街にあふれだし、それを求めようとする同好の仲間が集まり、その輪がさらに広がって、街を飛び出して週末の宴となっていった景気の右肩上がりは、もう、遠い記憶の彼方へと消え去ろうとしているのです。先日、仕事の関連で日本近代の風俗史を調べているうち、この20年間の閉塞感はおおきなものを失ってしまったことが明快になりました。ひとことで『志の喪失』です。国家も個人も地域も、目先の処理にばかり追われるうちに、大義・道理・勝算のバランスさえ捨て、何しろ自分だけのことしか思考回路が回らなくなり、実態は水没中であります。生活面では、買いまわりが恥ずかしいように揶揄され、最小アイテムの最大効果といわんばかりに、組合せ編集力が消費者に求められるようになってしまいましたから、売れる数そのもののパイが小さくなってしまったのです。

1965年のボストンの街中のスナップを見ていると、消費は美徳であった時代の、元気に明るい社会の健康さが読めるようです。

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2011年7月 4日 (月)

私の食物誌

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以前、文庫で読んだ本を、単行本に買い換えて読むと、同じ文体であるものの、言葉以外から伝わってくるものが違うことに気付きます。装丁の力なのか、組版の違いなのか・・・、同じ情報内容であるながら、受ける側の印象は別物なのであります。

電子出版のトレンドは進化することはあっても、退化するなど考えられない時代となったものの、一冊、一冊の紙から伝わるものは違いがあって当然で、利便性と文化性の違いとでも云っておきましょうか・・・。

吉田健一さんの名著『私の食物誌』は昭和40年から46年にかけて、読売新聞に連載されたシリーズをまとめたものですが、高度成長時代のど真ん中の食に関わる和と洋の対比、慎ましかった日本食文化が洋風化に傾斜していく流れなど、吉田さん独特のユーモアとひねりを加味して、伝わります。日本全国の美味しいもの・旨いものに対して、このような視点・観点があることを改めて認識させてくれますし、言葉の達人として読み手に広がるイメージの拡散など、その文体の品格が素晴らしいのであります。

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2010年12月31日 (金)

Boston Harvard Square

Boston_harvard_square_3 角地の入口が美しい本屋さんですが、両サイドに分かれたディスプレーも書籍以外のペーパーグッズが上手にミックスされ、さすが、ハーバード大学のお膝元、ボストンの本屋さんらしく、古いものと新しいものとの響き合いが素晴らしそうですね・・・。

入口の上にある店舗名の書体はFUTUREという書体で、ドイツ・ヒットラー時代に生まれたものですから、第二次世界大戦でドイツと戦った国々ではほとんど使われないし、嫌われたものですが、リベラルな知識層の住むこの町で、なぜか町に向かってよく目だっています。店内の蛍光灯の雰囲気からして1960年始めの頃でしょうか。やがて、リベラルな知識層と学生が団結し、アメリカ国家に対する変革・反戦の動きが活発になり、反戦フォークソングもこの町の至るところから聴こえ始めました。

ボストンではこの頃、ブルーグラスミュージックも盛んで、こんなバンドがありました。Charles River Valley Boys http://www.youtube.com/watch?v=1GNZUopyTZcというバンドは何となく都会的ですね。ボストンではありませんが、フォークの神様、ピートシガーと一緒に演奏する、Greenbriers Boys http://www.youtube.com/watch?v=wsjUzXDYEBc はニューヨーク中心に活動してましたが、同じ東部のインテリ層にブルーグラスが新鮮な音楽として感じ始めた頃のエネルギーが記録されています。若き日のジョン・ヘラルドのギター奏法に憧れましたし、マンドリンを弾くフランク・ウェイクフィールドもその後、ブルーグラス界のスターに上っていきました。 

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2010年7月24日 (土)

豪華客船の旅の記録

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ここ五年ほど、豪華客船の黄金時代の写真集、Linersを探していたものの、なかなか出会えず、といって、このようなマニアックな本をAmazonで一発クリックでゲットするのも、何だか、新小売経済の寡占化に巻き込まれているようで、納得いかず、永い間、神田を探し回っていたところ、ついに、Amazon価格の30%という激安価格で店頭の強烈な日差しに当てられていたところを探し当てました。

getty imageの膨大な写真資料から編集した20世紀初頭からの客船の旅にまつわる写真は、いわゆるクラスのある階層の風俗もたっぷりで、この一冊の中には、優雅できちんとしていた旅の時代が整然と展開されています。長期にわたる客船の旅では、毎日が、あっというエンターテイメントの宴会が愉しみだったのでしょうし、企画責任者であり主賓でもある船長さんの堂々とした姿には、やはり『贅沢は素敵だ』と叫ぶほか、ありませんね・・・。

You Tubeにも豪華客船の黄金時代がありました。 http://www.youtube.com/watch?v=pIDE79JKUj0

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2010年7月10日 (土)

STARS ABOARD

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Rimg30198Rimg30199 船旅は今も、優雅な暮しの象徴として、普遍的な憧れでありますが、これはCUNARD社http://www.cunard.com/en-US/ http://www.cruise-vacations.co.jp/cunard/index.htmlが過去に同社の大西洋航海のQueen Mary号 Queen Elizabeth号に乗船した各界のセレブを撮影したシンプルな内容の本です。いわゆる、コーヒーテーブルブックスと呼ばれるカジュアルな装丁は、何処で開いても、待ち合わせの時間つぶしにもご機嫌な写真とともに、待ち合わせそのものを忘れてしまいそうなほどです。

登場する皆さんは19世紀生まれの方から20世紀初頭に生まれた方々ばかりで、最年少でも1932年生まれのエリザベス。テーラーです。ハリウッドスターから第二次世界大戦の英雄まで、その幅の広さがこの本が愉しい理由でしょうが、何しろ、きちんとした男性群の身なりの正統性はフォーマル、カジュアルに関係なく写真を通して分かり、思わず背筋がシャキンとしてしまいます。

あえて云ってしまえば、社会に階層区別のあった時代は、それなりのリーダーに備わった人間力のオーラがあまりに大きく、今日のような隣のお兄さん・お姐さんというような親近感など微塵もなく、メリハリのあった時代に羨ましささえ、覚えてしまいます。

実はこの本、CUNARD社の客船に乗船した顧客に配布されるもので市販本ではなく、丸の内 LIPSETTのディスプレーとして展示されていたものですが、Amazonで販売されていることが分かり購入できたものです。

LIPSETT 丸の内店
東京都千代田区丸の内2-1-1 丸の内 マイ プラザ-1F/2F
TEL: 03-5220-6655

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2010年6月 1日 (火)

ノーマンロックウェル

Nr5 ノーマン・ロックウェル(1894-1978)の絵はアカデミズムからかけ離れていたものの、そのリアルさが功を奏し、著名な雑誌の表紙を飾り、又、その風貌・姿・ファッションに至るまで、写真以上のリアルさを以って、風俗資料としても一級なのです。

アメリカの中流階級の、保守層の生活を多く描いた中でも、第二次世界大戦後の時代のシリーズは、平和と長閑な慎ましい生活の空気に溢れ、その普遍的な画趣には、偏屈な藝術至上主義など観られず、ひたすら、ペイント職人として作意の無さで勝負しています。

Saturday Evening Post 1946年10月5日号の表紙を飾ったこの作品は、隣人であるWillie Gillisが戦争から帰還し、大学に通いだした頃の作品ですが、完全なアイビー、もしくはアメリカントラッドと称するメンズファッションの一時期を画したムーブメントの教科書のようです。ローファーと靴下の部分など、ディテール好きな皆様にはたまらない雰囲気が出ていますし、手元にある教科書に自分の名前を書き込んだ部分など、私も辞書にマジックインクで黒々と書いたのを思い出します。画面をセピア調に押さえ、落ち着いた画面に仕上がってますが、天井のドイツ軍のヘルメットとハーケンクロイツのペナントな何を物語っているのでしょう。

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2010年3月30日 (火)

Showa Style 再編・建築写真文庫

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編集者冥利に尽きRimg27469るとは、このような著作『Showa Style』 http://showastyle.blogspot.com/をまとめたときにでも云うのでしょう。

この本は、1953年から1970年まで17年間に亘り出版された145巻の『建築写真文庫』から、都築響一氏が商業・公共建築に分類される79巻を選び、その中からさらに再編集したものです。

元本は、建築家・数奇屋研究者にして、稀代の趣味人であった、北尾春道という男により、取材・撮影・編集されたもので、その好奇心と体力の結果、稀なるハード面からの第一級風俗資料となっています。登場する建築物はいわゆる建築家の作品の記録ではなく、その殆どが町に馴染んだ町角建築ばかりです。

私世代も、若き頃の記憶に残っている場所も登場しますし、先輩達がたむろしていた銀座の店などもあり、ページを捲るたびに過ぎ去りし町の薫りも運んでくれます。また、飲食店舗のロゴマークのシンプルで優雅なデザインにドキッとする例も多く、手を使い、頭を使いながら練り上げられた物件には、レトロモダンな印象以上に、パーマネントモダンのエッセンスが満ちています。

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2010年2月15日 (月)

マチスのカジュアル感覚

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木版画のようなテクスチュアと見間違えてしまうそうなマチスの絵画ですが、画面全体における色彩配分が絶妙で、緑色の場所がちょっと移動してしまえば、ダサイの一言で一喝されそうなギリギリの構成です。小顔のモデルの納まりも、デフォルメセンスが真っ盛り!、顔と腕の太さとのバランスなども気にならないのは何処かに錯覚トリックでも使っているのでは・・・、中央の植物のボリュームサイズに答えがありそうですね。

この画面全体を覆う赤がさほど気にならないのも、壁、床の更紗模様にファジーな黒系の輪郭線が引き締めているからでしょう。

マチスの職人芸が散りばめられた、カジュアル感覚な作品です。日中、日陰になりがちな一角にこのような明るい一点を飾るだけで、空間がまったく違った空気感に包まれますから面白いものです。

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